キャッチボール
キャッチボール。
父親と息子における無言の語り合い。
「今日の学校は、どうだった?」
「まあ、普通に楽しかったよ。嫌な奴もいるけどね。」
「ハハ、どこにでもいるよな、嫌な奴。」
「お父さんの会社にもいるの?嫌な奴。」
「いるいる、嫌な奴。そんな奴にはな~~。」
何も語らなくても、そんな会話が聞こえるようだ。
そして、少し気恥ずかしくも、この親子でキャッチボールをした思い出は、いつまでも記憶に残るらしい。
我が家でも息子が幼少時代、キャッチボールをした事があった。
気合いを入れて親子グローブまで買い、さあ私から息子への一投目の時だった。
「あれ?投げ方がわからない。」
我ながら、見事なほどの貧弱で変な投げ方だった。考えてみれば、それまでキャッチボールをした事がない。父ともした記憶がない。誰かから教わった記憶もない。これでは、投げ方を知っているはずがない。
息子とのキャッチボールを終えた後、父に何故、私が子供の頃にキャッチボールをしなかったのか聞いてみたが返事は素っ気ないものだった。
「俺も親子でキャッチボールなんて、した事ないから、わかる訳ねえべ。本読めや。」
父も祖父にキャッチボールをしてもらった記憶がないらしい。詳しくは、父は4人姉弟だったが、誰かが祖父にキャッチボールしてもらっているところを見た事もないらしい。
運動音痴の我が家系らしい話だが、これでは息子の為にならぬと本を読んで勉強してみた。しかし、イメージしていた投げ方は最後まで出来ず、息子に投げ方を教えられぬままとなった。
先日、友人と遊びながら貧弱で変な投げ方をしている息子を見て思った。
こうやって貧弱で変な投げ方は、まだ見ぬ孫へ、そしてひ孫へと伝わっていくのだろうと…。