希望
静かに自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ~。」
気持ちの良い挨拶を受け、誘導された席に着座する。
「大丈夫だ。今日こそは上手くいくはず。」
根拠のない自信を胸に、スタッフさんが来るのを待つ。
しばらくすると、私の所に自然な笑みを浮かべたスタッフさんがやってきて、軽快にトークを始めだした。
「今日はこれで…。」
スタッフさんに切り抜き写真を渡した。スタッフさんは、クスっと笑い、静かに頷きながら作業を始めだした。
「よし!そうだ!その調子だ!」
作業が進むにつれ、段々と私のボルテージも上がってくる。このまま行けば今日は成功すると確信した時だった。
「あれ?違う!違うよ、スタッフさん!そうじゃない⁈そこじゃないよ!」
スタッフさんが余計なテクニックを見せながら意図していなかった事をやりだした。心の中で精一杯スタッフさんに叫んだが、御構いなしに作業を進めていく。
私は涙目になりつつある事を気付かれない為にゆっくりと目を閉じた。ここまできてしまっては、もう修正は無理だろう。最終的な絵図も見えている。
「よし!! できました。今日は頑張りましたよ~。」
スタッフさんの明るい声を聞き目を開けてみると、そこには、鏡に映った坊ちゃん刈りのようなマッチ棒みたいな変な髪型のオッさんがいた。
「またか…。」
お礼を言い、店を後にした。
自分のイメージ通りの髪型というのは難しい。それはわかっているが、まだ入社して間もなく、カット経験が少ないというスタッフさんを応援したい余計な親心で通っているが、全く腕が上達しない。
そもそもさっきの「よし!!」は、何がよしだったのか。
「また、次回に期待するか…。」
そう呟きながら、帰路につくのであった。スタッフさんに見せた「松山ケンイチ」の切り抜き写真を握りしめて。