ドンドコドコドコ
午前10時25分。
私は上司と共に新人を連れて、近場で行われる大事な打ち合わせの場へと車で向かっていた。
「大事な打ち合わせだから資料を忘れないように。あと、打ち合わせ中の手洗いは先方に失礼だから、今のうちに済ませておくように。」
先輩風を吹かせながら新人にアドバイスをし、新人も私のアドバイスに素直に従っていた。
そして、後部座席の上司もそんな私を見ながら、ほくそ笑んでいた。
談笑している内に待ち合わせ場所に到着し、挨拶もそこそこに早速打ち合わせが始まった。
上司と私から色々と提案し、場も盛り上がり、新人からの羨望の眼差しを感じていたそんな時だった。
ドン…ドコ。
い、今のは何だ?ま、ま、まさか⁈
ドン…ドコ、ドンドコ。
間違いない、奴だ!何故、このタイミングで!
突然、強烈な腹痛に襲われた。しかも、トイレに急行したいタイプの奴だ。
まさか、新人に注意しておいて自分がこんな目に合うとは。
ドンドコドコドコドコ!ドンドコドコドコ‼
体中から変な汗が吹き出し、腹から「ピュー」やら「キュルキュル」やら色んな音が鳴り出す。終いには身体が震え出してきた。まるで、噴火直前の火山のようだ。
もはや、打ち合わせどころではないのだが、新人に注意した手前と場が盛り上がっている事もあり、必死に我慢した。
しかし、限界が近づきつつある。
もう駄目だと思ったその時だった。
「じゅあ、今日はこの辺で。」
…やっと打ち合わせが終わった。腹痛が起きてから40分くらい経っただろうか。
先方にさっさと挨拶し、腹痛である事が上司や新人にバレないように帰り際にあったコンビニへと駆け込んだ。
これで大丈夫だ。やっと用を済まし、笑顔で車に戻った私に上司が言った言葉に鮮烈が走った。
「…間に合ったのか?」
どうやら全てバレていたらしい。
「軽快に話していた奴が一言も話さなくなり、変な音を出しながら虚ろな目をしてれば、直ぐにわかるよ。まあ、決定的だったのは内股でコンビニに走って行く姿だったけどな。」
上司からは大笑いされ、助手席では新人も必死に笑いを堪えているのがわかった。
どうやら、私の尊敬される先輩像は、新人教育初日で終わりを迎えたらしい。